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会長挨拶

「正解」がわからない不安に耐える力(ネガティブ・ケイパビリティ)と経営学部での学び

2025年度より経営学部懇談会会長を拝命いたしました橋場と申します。この原稿を書くに当たって、歴代会長の挨拶文を参照させていただきましたが、皆さん一様に執筆当時が激動の時代であることを強調しておられます。私もこの例に漏れず、現状について一寸先が闇であることを指摘せざるを得ません。しばしば、今日がVolatile(変動性)、Uncertain(不確実性)、Complex(複雑性)、Ambiguous(曖昧性)に特徴づけられたVUCA時代と表現される事実からも、私たちが先行き不透明で将来の予測が困難な日々を過ごさなければならないことを理解できます。

こうした状況下で求められる能力として注目を集めているのが「ネガティブ・ケイパビリティ」です。一般的に、能力と聞けば情報を収集・分析できる、計画を立案できる、優れたスピーチやプレゼンテーション行えるといった才能や才覚、あるいは物事を的確かつ迅速に処理する能力を想像するはずです。そうした能力のことを「ポジティブ・ケイパビリティ」と呼びますが、ネガティブ・ケイパビリティとはこの裏返しの能力ともいうべきものであり、明確な答えが出そうにない、あるいはどうにも対処しようのない事態に耐える能力を指します。

それでは、なぜ今このネガティブ・ケイパビリティが必要とされるのでしょうか。先に述べたVUCA時代とは、従来の分析では複雑化した問題の解決策が見いだせず、変化が常態化するため一度決めた解決策がすぐに陳腐化し、予測不能な要素が多い中で、従来の経験則が通用しない時代と言い換えることができます。そしてこのような時代であるからこそ、簡単には問題を解決できない事実を認め、そうした不安な状態に耐えつつ、粘り強く問題解決に取り組み続ける能力、すなわちネガティブ・ケイパビリティが脚光を浴びているのです。

VUCA時代などと大げさな言葉を持ち出さずに、大学での学びに話題を絞ってもネガティブ・ケイパビリティの重要性を理解できるのではないでしょうか。例えばレポート課題などに取り組むに当たって、学生がインターネット情報やAI(人工知能)に安易に頼ってしまうことを多くの大学が危惧していますが、早くそして楽に「正解」にたどり着きたいという誘惑に抗しきれない(つまりネガティブ・ケイパビリティが欠落している)からこそ、そうした不正な行為に走ってしまうのです。加えて、このような姿勢では苦悶、苦闘を経た後に問題や課題を解決できたときの感激、まさに学ぶ喜びを体感することができません。また、どこかの誰かが見いだした答えらしきものを見つけ、それで満足してしまっては、自分だけの独創的な見解にたどり着く可能性を自ら閉ざすことになります。交友関係においても、答えを急ぐあまり、つきあいが浅いうちにこの人は自分の苦手なタイプであると決めつけ交流を絶つような行為は、それによってかけがいのない出会いの機会を棒に振っている可能性を否定できません。熟考することを回避し「わかりやすい」意見や考えばかりに目を向けてそれらに感化されていては、極端なあるいは偏った考えに陥ってしまいかねません。貴重な大学生活がこんなことになってしまってはあまりにもったいないのではないでしょうか。こうした事態を避け、充実した日々を過ごすにはネガティブ・ケイパビリティを身につける、より正確にいえば、先に述べたポジティブ・ケイパビリティとネガティブ・ケイパビリティをバランス良く身につけ、それらをたゆみなく高めていくことが求められるのです。

ネガティブ・ケイパビリティの重要性をご理解いただけたとして、それではどのようにしてそうした能力を身につけ、高めていけば良いのかを考えてみましょう。高校までの教育は正解が用意され、いかに早くその正解にたどり着くかを重視する類いのものが中心でした。しかしながら、実社会では問題設定が可能で、解答がすぐに出るような事柄がむしろ例外的なのであり、大部分はわけが分からず時として理不尽ですらあるものです。そうした厳しい現実を知ったうえで、それでも腐ることなく興味や尊敬の念を抱きながら、何かを掴みとれるまで耐え続けていくことの大切さを理解し、努力を積み重ねていくことが大切です。その意味で「解なき世界」ともいうべき実社会を体験することがネガティブ・ケイパビリティ習得のための入り口といえるでしょう。

この点、私ども名城大学経営学部では「現場触発型」教育を謳い、現場に根差して考える力の育成にこだわって参りました。具体的には、企業訪問やフィールド・ワーク、ご協力企業にリアルな課題を提示してもらう産学連携授業などに取り組んでおります。こうした現場触発型教育を通じて、一筋縄ではいかない実社会に多少なりとも触れる機会を与えることが、ネガティブ・ケイパビリティの習得に資するものと確信しております。

とはいえ、教育は大学だけで完結できるものではありません。是非ご家庭でも、お子様が「正解」への近道を探そうと汲々とする姿を見かけましたら、時には先を急がずじっくりと考えてはどうかとお声がけをいただければ幸いです。ここで取り上げたネガティブ・ケイパビリティの育成に限らず、私どもは「国際感覚に富み、幅広い教養に支えられた経営諸科学の理論的・実践的能力を社会の多様な領域で発揮する人材の養成」に努めて参りますので、引き続き会員の皆様にはご支援・ご協力を賜りますようお願い申し上げます。

最後に、何やら偉そうにネガティブ・ケイパビリティについて語ってきた筆者自身はその能力を十分兼ね備えているのかと問われれば答えに窮するところです。ただ、こんな話に興味を持っていただけるのかという不安や、本原稿の執筆期限を大幅に超過したことによる関係各位からの無言のプレッシャーにもひるまず何とかこの拙文を書き上げられる程度のネガティブ・ケイパビリティは持ち合わせていたことを申告し、挨拶文を結びたいと思います。

経営学部懇談会会長 橋場 俊展

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